2010年2月生まれ。
父が俺の姪っこ(つまり父の孫)に会いに行った際、兄嫁の実家で飼われていた猫がとても穏やかで人間の赤ん坊にも優しく接しているのを見て(猫って多分赤ん坊には皆優しいと思うのだが・・・)、「これだけ優しいのであれば俺も飼ってもいいな」と言う父の盛大な勘違い(と俺個人は思う)で、後日、リアンは同じブリーダーから貰われてきた。
うちにはもう一匹(うちの文化では一人と呼んでいるのだが、そんなことはまあいい)、こころさんと言う同じスコティッシュフォールドがいるのだが、同じ時期に同じブリーダーから貰われてきたらしい。
10年前と言えば、父がそれから入退院を繰り返し、看護師であった母はほぼかかりきりで世話をし始めた頃である。
家に酸素ボンベを持ち込んで30分置きに父に起こされていた母を、そして父亡き後、抜け殻のようになった母を時には近すぎたものの、ほぼ適度な距離感で慰めてきた。
この記事を書いている俺自身も、母が一人で暮らすのが精神的に難しくなりつつあることから帰って来たわけだが、俺が落ち込んでいる時や苦しんでいる時、体の上に乗るわけでなく、近くに寄り添って慰めてくれた、優しい猫だった。
今回の症状と経過
2か月ぐらい前、母がリアンの症状でかなりネガティブな発言が続き、どうしたのかと聞いてみたところ前足の爪の状態が良くなかったらしく動物病院に連れて行った所、診療した女性の動物医が「大したことはない」と言った上でかなり手荒な様子で全ての爪を切ったとのこと。
処方された飲み薬(消炎症薬と抗生剤だと思われる)を与えていたものの症状は改善はおろか他の爪まで同じ症状になってしまい、もう動物病院に連れて行っても良くならないと言うまでに不信感を持ってしまっていたのだった。
猫の事は基本的に母に任せていたのだが、母一人で車で連れて行くのも一苦労だったようでそのまま放置していると母の精神状態に良くないと思い、なんとか母を説得して俺も同行することにした。
それからほぼ毎週、リアンを連れて動物病院に連れて行ったのだが、俺が行くようになってからその動物病院の院長(初老の男性)が診療してくれるようになり、ようやく外科的に消毒などの対処をするようになった。
その頃には初め指一本だった褥瘡(じょくそう)のような症状は左前脚と右後ろ脚のほとんどに拡がり、膿んだような臭いを発するようになっていた。
その頃は抗生剤と炎症を抑えるためのステロイドを処方されていて、母は毎日朝晩、脚を消毒して消毒液が患部に浸透するという20分の間、リアンを抱きかかえて患部を舐めないようにしていた。
動物病院に連れて行ったある日、院長に消毒処置をしてもらって爪を切っていた時に、爪を切るためのニッパが誤ってリアンの左前脚の爪に当たり、爪と爪に付属する骨が丸ごと剥がれ落ちてしまった。
驚倒した院長がすぐにレントゲンを撮ってみたところ、脚先の骨の部分に波打った部分が見られ、かなり強度の炎症症状が出ているとのことだった。
この時の院長先生を責めることはできないだろう。人間の爪だって普通はあんなに簡単には剥げることはない。ましてや日頃爪とぎをしている猫なのだ。横で見ていたこちらだって全く予想していなかったのだ。
その日から炎症を抑えるためのステロイドを通常の8倍量、炎症が一時的にでも収まってくれることを期待して処方され、もし褥瘡様の怪我が収まって炎症が鎮まるのであれば全ての爪を取り除く手術をしようと言うことで、更に投薬と消毒を続けることになった。
そして、ある日唐突にリアンが吐血した。
一週間以上の投薬と消毒にも関わらず足の褥瘡様の怪我は改善の兆候すら見せず、投薬によるものかその他の原因によるものか、吐血してしまったことからこれ以上のストレスをリアンに掛けることは彼のQuality of life を著しく損なうだろうこと、人間でできることをやり尽した上で、それが裏目に出てしまったことを合わせて考え、最後にリアン自身の生きる力で病気を克服してくれることを祈って彼が望む水と餌、そして少しのサプリメントを与えるのみにして見守っていた。
この1週間、なんとか摂っていた食事も徐々に量が減り、ある日などはリアンが好きだったシーチキンを与えていたところ咀嚼と共に「ゴリゴリ」と言う音が聞こえ、その後に吐血したことがあった。(上の写真のタイミングである。)
予想に過ぎないが、骨の炎症が体の全ての末端、この場合アゴの部分にも表れて歯が折れてしまったのではないかと思われた。
この時点で母と話し合い、全身症状が出てしまっており、リアン自身が病院をかなり恐れていたこと(車の中で失禁してしまうぐらいだった)もあったため動物病院に連れて行って延命処置をすることは敢えて行わないという判断を下した。
この二日間は食べる量が少しずつ減りつつも、自分の足で水を飲みに行き、トイレも50センチ進んでは横になって休み、を繰り返しつつ自分の脚で行ってしていた。
今日の朝、耳の奥に響く母の呼び声で目を覚ました時、6畳間の部屋をまたいだ向こう側で「よく頑張ったね・・・よく頑張った・・・」と言う母の鼻声が聞こえた。
リアンの刻(とき)が来たことを悟ると共に、耳の奥の呼び声の余韻と母のいる場所との距離に違和感を感じながら母の下に行くと、リアンの呼吸が10秒に一回から1分に一回、肺の細胞が酸素に喘ぐかのように肩と横隔膜を動かしながら、その力を使い果たしていくところだった。
俺もリアンを撫でさせてもらい、リアンの呼吸が絶えた。7時40分だった。
リアン、2021年8月13日、奇しくもお盆の入りに、想像以上に壮絶で、彼の小さな体では想像もできないほど尊厳に満ちた最期だった。
今回の症状とスコティッシュフォールドの遺伝的特性
正直なところ他にできる事があったのではないか、あの時違う判断をしていたらひょっとしたらもっと長生きできたのではないかという後悔の念もある。
ただそれ以上に、スコティッシュフォールドという種そのものに存在すると言われる遺伝的な疾患についても考えさせられた。
父が購入を決断した時、俺は東京にいたためその判断について知らなかったのだが、そもそもペットショップやブリーダーから猫を買うと言う行為自体、あまり褒められるものではないと考えている。
そして今回、リアンの症状をなんとか改善できないかリサーチした際に得た情報で、特にスコティッシュフォールドという種そのものが背負っている業に無念を感じることになってしまった。
スコティッシュフォールドの関節炎や遺伝的な問題について、日本語で端的に説明してくれているのは「子猫の部屋」さんである(サイト主さん、もし当リンクに問題がある場合はご連絡下さい)。
骨軟骨異形成という遺伝的な異常は、折れ耳の子達に発現することが知られているらしい。発症後に母に聞いたところによると、リアンを受け取った時にブリーダーに「去勢」を強く勧められたということだが、それは彼が子を持った時に軟骨に異常を持った子が産まれる可能性が非常に高いことからだと思われる。
あまりブリーディングについて知っているわけではないので予想に過ぎないが、リアンにしても骨軟骨異形成(耳折れなど)の無い親から産まれていると想像されるため覚醒遺伝で出現したのではないかと思われる。
つまり、スコティッシュフォールドのブリーディングでは、ある程度の確率で軟骨に異常を持つ子達が産まれることが前提になっているのではなかろうか。
そうだとすると、今回のリアンのような若すぎる、そして痛ましい病と引き換えに得た可愛さと、関節の痛み故に猫本来の活発さを失ったと言える優しさと大人しさを売り物にしているのではないか、と言われても否定できないのではないか?
人間だってお金を稼いでご飯を食べなければ生きていけない。しかし想像することさえ憚れるような痛みに耐えて生きて行かなければならないような種を増やして売ることが許されるだろうか?
異論もあるとは思うが、俺の中では答えは否、である。
もしスコティッシュフォールドの購入を考えている方がこのサイトを読んでいただいているのであれば、購入はお願いだから止めて欲しい。
既に生まれている子に罪はないだろう。そこにいる子は生きるために自分を必要としていると感じるかも知れない。
しかし高い料金で購入したその費用そのものが一部のブリーダーさんの生活費だけでなく、更なるブリーディングに費やされるのである。
不幸な輪廻は、痛みが伴ったとしてもどこかで断ち切るべきである。
上記「子猫の部屋」さんだけでなく、BBC のサイトでも書かれている通り欧米のペットショーの多くでスコティッシュフォールドの出場が許されておらず、種の起源と思われるスコットランドでは繁殖そのものの禁止が検討されているということだ。
色々な経験と議論、調査を経て上のような結論に近づきつつある意味について、再度考えて欲しい。
そして種を問わず行われているブリーディングと言う行為が第二のスコティッシュフォールドを生み出しかねないことも考えて欲しい。
純血種を保とうとしたり、ある特徴(例えばタレ耳とか、脚の短さとか)を助長するための繁殖を続けるということは必然、近親による交配という危険な行為に目を塞ぎ、新たな遺伝的な異常を生み出しかねない。
猫を飼うのを検討しているのであれば、保護猫にも目を向けて欲しい。高いお金をかけずとも、この世に生を受けて不幸にも人間の都合で潰えようとしている命を救う方がよっぽど意義深い。
猫はそのままでかわいいし、人間に全力で寄り添って(嫌われているように見えてもそれが彼らなりの全力である)くれるはずだ。
縁があって家族になった方へ
もし既に購入したとか、何かの縁で飼っているという方の場合(俺の場合は実家に帰ったら既にいたわけだが)、一定程度の確率で上の軟骨異常が出現する可能性を覚悟してほしい。
かと言って全てがそうだとは言えないので悲観することも無いだろう。前述の兄嫁の実家の猫たちは二匹とも21年間生きたそうだ。
今日逝ったリアンにしても、耳が垂れているようには見えなかった。そういう意味でどの程度の症状が出るか、などはおそらく個体により相当違うのではないかと思う。
今回のリアンについて言えば、骨瘤ができたわけでなく爪付近の骨が通常では考えられないほど脆くなって怪我のような状態になった。
動物病院の院長も同じような症状はご存じなかったようで、薬の処方もある効果を期待して投与するものの結果が伴わないことが多かった。
リアンの場合、原因はわからないのだが後ろ足の爪の先端がとがらない状態が続いていた。爪を切ることで対処していたが、何らかの原因であるべき形が保持できなかったのではないだろうか。
そして1本の爪の異常で動物病院にかかった際に爪を切ってもらった時に、脆くなってしまった爪付近の骨や筋肉を痛めてしまったのではないかと考えている。
丁度爪を切ってもらったタイミングと、問題の無かった他の爪の発症が符号するからだ。
母から聞いたところによると、動物病院で切ってもらった時には非常に痛がっていたリアンだが、爪の根元を押さえて切ったところ痛みを感じてはいなかったようだということだった。
爪の伸び方がおかしかったり、他のサイトや記事で書かれているように歩き方がおかしくなった場合はまずは早いうちに動物病院にかかるのがいいと思う。
そして今回のリアンのように、爪に異常がある場合は細心の注意を払って処置を行う様、医者にお願いしてもらいたい。
今朝、リアンの遺体を洗う時、誤って剥げた左前脚の爪の部分は骨がむき出しになってしまっていた。相当の痛みが伴ったに違いない。同じような思いをする猫が一匹でも少なくなることを本当に微力ながら願いたい。
そして、私見だが猫に限らず動物は人間のような思考方法をしないため、死を可能な限り遠ざけようとし、最期の最後まで生きようとするのだと考えている。
それまで一緒の時間を過ごして癒してくれた存在が苦しむ姿を見るのは辛いと思うが、そうなったら最期まで看取ってあげて欲しい。
もちろん、安楽死という選択を全否定するつもりはない。ないが、嫌いな病院に連れて行かれて恐れを抱いたまま逝くというのはちょっと可哀想だとは思う。
最後に
リアンが元気な頃にはよくリアンを追い掛け回していたラズライト(保護猫:1歳)はこの二日間、リアンを守るかのように少し距離を置いて、常にリアンが目に入る位置にいた。
時々近くにいって、頭を舐めてあげていたようである。
そしてリアンの最期まで近くで見守っていた。少し不安を感じているように見えた。
リアンの遺体を洗って段ボールの棺に入れ、丁度お盆の用意がされた仏壇の前に居てもらったところ、リアンが息を引き取る直前に立ち損ねて床に体を打ち付ける音に驚いて近くに寄ってこなくなっていた「こころ」さん(スコティッシュフォールド:11歳)がお気に入りのぬいぐるみをリアンの下に持って行き、「にゃーん」と二回鳴いた。
猫には猫なりの、供養の方法があるような今朝のひとときだった。
リアン、うちに来てくれてどうもありがとう。また遊びたくなった時はいつでも帰っておいで。そして、充分に気遣ってあげられなくて、すまんかった・・・
(2021年8月13日、15時半、了)